さよならは月夜の夢に


鈴木慶一、
新作『Ciao!』ロング・インタビュー


〈後編〉


インタビューと構成 村尾泰郎

無期限活動休止を決めたバンドとは思えないほどバンドの結束を感じさせつつ、メンバーそれぞれの個性がぶつかりあい、支え合った『Ciao!』。アルバムを聴いて改めて思うのは、ムーンライダーズというバンドは、ロックというジャンルにとらわれず、誰よりも先に旅の支度を終えて、次の時代へと乗り込んでいくオルタナティヴな存在であり続けたということだ。しかも、21世紀に入ってからアルバムのクオリティにはますます磨きがかかり、テンションも高まるばかり。バンドとして新たなピークを迎えるなかで、突然発表された活動休止宣言はシーンに大きな驚きを与えたが、そこにはどんな感情が交差していたのか。インタビューの後半では、活動休止をめぐる今の心境を訊いた。



——(前編のインタビューからのつづき)「今宵、フィッツジェラルド劇場で」といえば、ロバート・アルトマン監督の最後の作品ですね。


最後の作品って面白いよね。(スタンリー・)キューブリックは「Fuck!」で終わるんだよ(遺作『アイズ・ワイド・シャット』の最後のセリフ)。じゃあ、俺たちは何だろうと考えて、『Ciao!』というタイトルは私が決めた。軽い感じで、こんにちは、さよなら、両方の意味がある言葉。


——そういえば、今回の新作はCDの最後の曲が「蒸気でできたプレイグラウンド劇場で」で、アナログのラストが「チャオ!組曲」と、ふたつのエンディングがあります。どっちの曲で終わるかによって印象が変わってきますね。


「チャオ!組曲」はやっと念願の組曲がギリギリに出来上がって、総力を、いったんアルバムは完成したなと思ってたみんなが、再度注いだものだからね。だから、アナログの流れを意識してアルバムを作ったように思われるかもしれないけれど、さっき言ったみたいに、レコーディングの終わりに思いついたんだよ。その結果、CD は「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」みたいに明るく、アナログはしっとりと「ありがとう」って感じで二重の終わり方になっている。さらに、アルバムに先駆けて「Last Serenade」を配信しているから、いろんなものが複合的に絡み合ってるんだよ。「Last Serenade」は配信のヴォーカルは私で、アナログは岡田君。大阪でのギグのエンディングの映像に入ってたのは岡田君ヴァージョン、東京は私のヴァージョン。ところでアナログは大幅に曲順を変えようと思ってたんだよね。A,B,C面は。片面の収録時間の問題もあるし。でもCDと同じが偶然にもしっくりきた。2枚組だから、ハイライト部分がA面の最初と最後、B面の最初と最後、C面の最初と最後と、6カ所あるんだ。アナログは。昔はそこを気にして作ってたもんだよ。そして内側の曲は音がちょっと悪くなる宿命を持ってる。厳密に言えばね。で、組曲は18分と決めてた。みんなアレンジする時、決して私がラフに繋いだデモより長くしないでねって。CDの納品に間に合えば入れるということも考えてたし。組曲の編集は収録時間との格闘でもあったわけだ。


——そういえば、「チャオ!組曲」では「チャオ!」と言っていますが、CDでは言ってないですね。


タイトルが「チャオ!組曲」だからね。でも、その前に曲の頭で「月面パラダイス、立ち入り禁止」って言うんだよ(笑)。「ここから先は俺達だけで作ったものだから、好きな人だけ聴いてくれ。アナログ盤だし」ってことで。「Get Out of Here!(出てけ!)」とも言ってる。35年、いやそれ以前をカウントしたら40年以上も一緒にやってきた仲間が活動休止するんだ。その理由は他人にはわからない。だから言う事もない。知りたいなあ、ちゃんと教えてよって人は(Get Out!)さ。俺たちの作ってきた音楽、楽しんでくれてるかい?ありがとうって心から言いたい。そういうことさ。


——「州崎パラダイス」(川島雄三監督作「州崎パラダイス、赤信号」)ならぬ「月面パラダイス」ですね。35年間作り上げてきた、ムーンライダーズというパラダイス。そういえば、川島監督の墓碑銘は「サヨナラだけが人生だ」でしたが、今回のアルバムは当然ながら〈別れのメッセージ〉が滲んでいます。活動休止が決まったのはアルバム制作のどの時点なんですか?


デモを集めた時点ではまだだった。活動休止が決まってからレコーディングだね。しかし前作(Tokyo7)でも赤信号は書いてたね。


——やはり、活動休止が決まったことで、みなさんがレコーディングに臨む気持ちにも、大きな影響を与えたんでしょうね。


そういうのは、あるだろうな。


——慶一さんのなかでは、どんな気持ちの変化がありましたか?


なんか、しんみりする曲もあったよ。書いた本人は意識していなところで、やけに歌詞が心に響いたりとかさ。


——例えば、どの曲ですか?


それは言えない(笑)。多分ね、みんな無意識に歌詞に出ていると思うんだ。ちょっとだけ言うと「Masque-Rider」という曲は最初「仮面ライダー」というタイトルだった。それは使えないので、変更したんだけど、俺たちは仮面をかぶってやってきたのかな?ずっと本質を突かないで、というメッセージがこめられている気がした。白井のね。


——休止について、〈以前から考えていたわけでは?〉と憶測もあるみたいですが、実際はどうだったんでしょうか。


それはないな。ただ、毎回このアルバムが最後、このライヴが最後、そういう気持ちでやってきたのさ。作るとはそういうことだと思う。気構え方としてだよ。でも、35周年で一旦休もうよと漠然と思っていた人もいたかもしれない。寝耳に水の人もいたかもしれない。私も60(歳)になったりして、「35年かあ」とかって考えるじゃない? で、考えてみたら、21世紀に入ってからのムーンライダーズの勢いとかクオリティーは、すごく高いと思うんだよ。


——21世紀以降、さらに拍車がかかってますよね。


高いぞと。毎回それを越えるものを作るという重荷を背負いながら(新作を)作っているわけだ。21世紀にモンスター・バンドなんて言われるようになり、しかしそれはバンドとしてはモンスター・バンドだが、個々はモンスターだ。うまくけばモンスター・バンド、うまくいかなけりゃただのモンスターの寄り合いだ。サム・カインド・オブ・モンスターだよ。どっちに転ぶ可能性もある。それはやっぱり、非常にハードなことなんだよね。要するにルーティン・ワークをするってことを一切しないわけで。35年やって、「クオリティーの高いところにいるぞ」というところで、一旦区切りをつけた方がいい、という考え方もある。下がるのが怖い、下げない体力と理力がいるんだ。


——そういう不安も、どこかにあったんですか。


私のなかには今のところないけどね。自分では今だそういう経験がないんで。「下がったな」って思ったことは一度もない。耳周り以外はね。耳の話をこの際しておこう。1990年初頭の重大事件だったな。職業を変えなくちゃとも思った。作詞作曲はなんら問題ない。ライヴにおける対応を20年間研究を重ねて今にいたってる。私のモニタースピーカーは300Hz以下はカットしてある。干渉するからね。1000Hz〜2000Hzを上げてる。聞きやすいので。でも会場の大きさや響きや、楽器の音量によって毎回研究さ。ステージ上での音量は突然上がったりするから干渉は受ける。でも、いつか耳以外でも、「下がったかな」と、そういう時がくるかもしれない。その恐怖心っていうのは、必ずあると思うんだよね、誰しも。定年を迎えたサラリーマンもあると思うんだよ。みんなあると思う。そういう恐怖に対して、意地とか、理力とかさ、そういったもので、毎回臨んでいるわけだよ。それで〈じゃあ、なんで休止になるのか〉っていうと、〈一番良い時に休止にしたほうがいいかな?〉っていう考えもあるよね。まあ、それだけじゃなくて、いろいろ複合的な理由で、一旦休みにしたほうがいいんじゃないかな?っていう気になったと思うんだ。だからひとことで言うのは、難しい。引退はしてないよ。問題は現役ってのを、他の場所でどう現していくかだね。現役バリバリの、はいムーンライダーズです、こんにちは、が休止だから。


——80年代終わりに、5年間活動休止していた時期もありましたよね。あの時は宣言とかはないかったですけど。


あれは休もうと思って休んだわけじゃないからね。知らないうちに5年経っちゃった。それに今回と決定的に違うのは、みんな30代だったことだね。10周年だったんだよな。あっという間に10年経ってしまって、あの時に一旦休んだのは正解だったと思う。後から考えると、あれは、新たな音楽が出てきて、自分らの居場所が見当たらなくなったのかもしれない。じゃあ、今回はなんなのか?っていうと、歌詞にも書いてあるけど、自分らの居場所がぎゅうぎゅう詰めになった。いろんなものでぎゅうぎゅう詰め。それは音楽的なものもあるだろうし、その他のものもあるだろうし。だから、とりあえず一回空っぽにしようと。


——「ぎゅうぎゅう詰めの穴の中 そこでなにをしてきたんだろう Honey」(「主なくとも 梅は咲く ならば(もはや何者でもない)」)ですね。


そう、詰まり過ぎた。それは世の中のテクノロジーというのもあるけれど、インターネットとか情報とかも含めて詰まり過ぎた。詰まり過ぎた中にギューッといる感じ。具体的にうまく言えないけど、砂場に掘った穴がぎゅうぎゅう詰めになって苦しくなっちゃった。ぎゅうぎゅう詰めが6人もいるわけだ。ステージではお客さんに穴を掘ってもらって、少しは楽になったよ。あれがなければ、泣いて終わったろう。ステージ上で涙は禁物だからね。


——今回のアルバムのアートワークもぎゅうぎゅう詰めですね。


もう全部出しちゃおうって感じだよ。みんなが曲を書くから、デモの量もぎゅうぎゅう詰めだし、とにかく全部ぎゅうぎゅう詰め(笑)。21世紀の快進撃は、裏側にぎゅうぎゅう詰めを生み出したんだ。