さよならは月夜の夢に


鈴木慶一、
新作『Ciao!』ロング・インタビュー


〈前編〉


インタビューと構成 村尾泰郎

それは突然の知らせだった。2011年11月11日、満月の日。デビュー35周年を迎えたムーンライダーズは、バンド史上最初で最後の無期限活動休止の発表をした。思えば、モビー・グレープにちなんで、トム・ヴァーレインがテレヴィジョンの解散を決めたのも満月の夜だった。物は壊れる、人は死ぬ、サヨナラだけが人生だ。そういうわけさ、ハニー。そして、バンドから差し出された21作目のフル・アルバム『Ciao!』。活動休止の理由は明らかにされてはいないが、その理由は多分、この置き手紙のようなアルバムの行間に秘められている。どんな想いでこのアルバムが生まれたのか、アルバムを完成させたばかりの鈴木慶一に話を訊くことができた。今回、新作について行われる唯一のインタビューだ。取材場所は都内にあるムーンライダーズの事務所。取材前に、今朝仕上がったばかりだという、アナログ盤のみに収録される「チャオ!組曲」を聴かせてもらった。ステレオ・セットにはヴァン・ダイク・パークス『Arrangements Volume 1』のアナログが立てかけてあり、その後ろからバーバレラに扮したジェーン・フォンダが顔を覗かせている。頭の後ろで手を組み、じっと曲に聞き入っている鈴木慶一。曲が終わっても針は上がらず、レコードは回り続ける。



——エンドレスになっているんですね。


(針をあげながら)そう。曲が終わってノイズが残る。まあ、かつてもやったが、レコード盤へのオマージュみたいなもんだ。こういう仕掛けはアナログにしかできないからね。


——それにしても、CDに入らないのがもったいないくらいスゴい曲でした。


このアイデアは最後の最後になって思いついたんだよ。それで取りかかったから、もう納品ギリギリ。なんとかアナログには入れられた。思いついたのが遅かったな。


——なぜ、こんな風にアウトテイクをミックスしようと思ったんですか?


ムーンライダーズは、とにかくデモがたくさん集まるバンドなんだ。全員ソングライターだからね。そして、そのデモをいちばん聴いているのが私。今回のアルバムは均等に全員の曲を採用するということになって、自薦が1曲、私が1曲選ぶ。最初にみんなが、おいジョージ・マーティン、まずは選んでくれよってんで、私が選んだ6曲を録音したんだが、もう1曲を各々が自分で選ぶ時、時間がかかった。迷う人もいるし。でも私がいちばんデモを聴いているんで、最終的には〈これがいいんじゃない?〉と。本人の意見を尊重しつつ、時にはこっちがいいのでは?とか言ったり書いたり。それで見事に一人2曲ずつ12曲になった。録り終わって、さあ、完成だと思った時、「待てよ、まだ出し切っちゃいないぞ」と思ったんだよね。で、もう一回デモを聴き直したら、ここを繋げたら面白いだろうな、っていうデモがいっぱいあったので、こういうことになった。いいサビとか、いい出だしとかね。で、曲を選んで、それを繋いだものをみんなに聴いてもらって、作者が手を加えていった。スタジオでやる者もいれば、自宅で作る者もいる。とにかく時間がないから、私の曲は1曲にして、選者に徹して、みなさんの曲のいい部分ををたくさん入れたかったから。


——アルバムに比べて、使われている曲が、ちょっと軽やかな感じがしました。気のせいかもしれませが。


まあ、アルバム用の曲を選ぶ時って、重厚なものになりがちなところはあるよね。〈こういう理由があるから入れよう〉となるから。そこからこぼれ落ちた曲だから、もうちょっと軽い気持ちで聴けるものになる(笑)。それにミックスすることで面白くなりそうな曲を選んでいるし、場合によってはサビを使わないことだってある。このメドレーで、私がやっているのは、さっきも出て来たけどビートルズにおけるジョージ・マーティンみたいなことだね。アンソロジーを作ってる時のようなね。


——アルバムのほうは結構ヘヴィですよね。荒々しくて濃厚。


うん、ヘヴィだと思う。


——オープニング曲「who’s gonna be reborn first」(作詞・作曲/白井良明)からして戦闘モードです。


8分の7拍子でね。やっぱり、アルバムの1曲目は既聴感がないもの、新しい曲を持っていこうと思うんだよ。常に最高傑作を作りたいと思っているから。


——『最後の晩餐』のオープニング曲「who’s gonna die first」を思わせるタイトルですね。あれが活動休止からの復活を告げる曲だったことを考えると興味深いですが。


白井のなかでは、思うところがあるんだろうな。良いタイトルだと思うよ。その繋がりも考えて、1曲目にした。『最後の晩餐』から2度目の長旅が始まって、そして『Ciao!』だね。


——東京中低域の荒々しいホーン・セクションが印象的ですが、これは白井さんのアイデアなんですか?


うん。「火の玉ボーイ」コンサートの時(2011年5月5日)、「アルファビル」を東京中低域と一緒にやったんだけど、あれが良かったからじゃないかな。「火の玉ボーイ」コンサートのベスト・テイクだと思う。


——慶一さんのヴォーカルもテンション高いですよね。どこかアラビックな感じもあって。


それも白井のイメージなんだけど、現場で「PILのジョン・ライドンみたいな感じで歌ってくれ」と。


——なるほど、『フラワーズ・オブ・ロマンス』の頃の?


そうそう。あんな感じにしたいって。それでいっぺんやってみて、普通のも録ったけど、こっちが「いいんじゃない?」って。1曲目のヴォーカルがとてつもなく変なのって、いいでしょ?アラビックというよりも、全体になんかこう、強力な無国籍感はあると思う。ムーンライダーズは無国籍な感じで始めて、いろいろ紆余曲折したけど、今回のアルバムは相当、無国籍になったと思う。


それは強く感じました。でも初期の書き割り的な無国籍感とは違って、すごくリアルで肉感的な気がしますね。


やはり若いときの無国籍感っていうのはうわべのものだ(笑)。おそらく子供の頃に聴いた不思議な音楽の焼き直しだ。昔だと〈こういう感じでやろう〉と、イメージのなかで無国籍感を出していったけど、今ではパッと演奏したら、そういう音が出てくる。例えば2曲目の「無垢なままで」のリフとか、ちょっとトラッドな感じもあるけれど、それを意識したわけじゃないんだよね。ただ私が現場で思いついて、「このフレーズ入れたらいいんじゃない?」って。我々はちゃんとワールド・ミュージックを勉強してやっているわけじゃなく、英米のポップ・ミュージックにはない要素が、特殊なフィルターを通じて自分たちの血となり肉となっている。


——「無垢なままで」(作詞・作曲/武川雅寛)は、最初の頃は、そんなアイリッシュ・トラッドっぽい感じではなかったんですか。


いや、もっとトラッドっぽかった。イントロをフルートだけにしてアイリッシュは薄まった。アイコンとしてのトラッドを使いたくなかったんだ。今やると面白いのは何かと考えてるだけさ。それには時としてアイコンは必要ない。こういうフレーズを入れるとアクセントになるんじゃないかってね。(曲を録音してゆく過程としては)一度、全員で曲を演奏してみて、突然ひらめくフレースがあったりするんで、それが必要ならば付け加えていくわけだ。